今夜はひじょーにツイてなかった。会社帰りの電車で、途中隣の席
が空いたのだけど、前に立っていたおじさん二人が、お互いに席を
譲り合っているうちに、ショッピングカートを引いたジイさんが座った。

なんとそのジイさん、いわゆるホームレスに毛が生えたみたいなタ
イプだったんだな。…えっとその、ホームレスでも、まだ電車に乗っ
ても、周りの空気がなんとか耐えられる、ってみたいな人なの。

おじさん〜、早く座ってくれないから、変な奴が座っちまったじゃんか、
と思いながら、わしは寝ることにした。だってそやつ、「梅ッシュ」を飲
みだしたのだ。酒はキケンよぉぉぉ。くわばらくわばら。そしたらさ！

「お嬢ちゃんよ、今何時だい？　時計持ってんだろ、聞こえてんのか
よ（以下省略）」

うわっ、きたよ、来たよ、来たよッ！

「誰に口聞いてんだよッ、おらッ。汚ねぇツラして人に話し掛けてくる
んじゃねぇよ！一度死んでから出直して来やがれ（←わし心の声）」

…と言いたかったけど、か弱い(?)わしは勿論言えないので、怒りを
押さえつつ黙っていることにした。そしたらそのジジィ、「俺は新宿の
ヤクザ者だ」…云々、絡んでくるではないか。

ひえ〜。

しかし、ここで席を立つのも癪だし、手を出してこようものなら、こっち
から一撃を食わせれば倒れそうなジジィだったので、とりあえず下車
せずに座っていたところ、

「おじちゃん、私らが席を譲ってやったのに、隣の人に迷惑かけるん
じゃないよ。お姉さんだって困ってるじゃないの！　それで、どこまで
行くの？ああそう、その駅なら私も一緒だから、ずっと見張っていて
あげよう」

何と、さきほど席を譲り合っていたおじさん達が言ってくれたのであ
る。うぅぅ、ありがとうォォォ。うるうるうる。さらに一言、言い放った。

「そんな足元に缶を捨てちゃダメだよ。ちゃんとゴミ箱に入れなくちゃ」

それを聞いて、この酔っ払いジイさん、どうもすんません、を言いな
がら、次の駅で降りていった。わしはおじさん達に「助かりましたァァ」
とお礼を言って、一件落着したのであった。おじさん達は「ハッタリだ
から。ホントは小心者だし。」「あの人、あんなトコで降りてどこへ行く
んだろう」と話したりしていた。

それにしても、最近電車で酒とか飲みながら、ブツブツ言ったり大声
で叫んだり、そういう初老の人が多い。人の人生はいろいろなことが
あるし、どういう経緯でそういう性格になったとか、そりゃ事情がある
だろうね、ってのはわかるよ。人は弱いモンなんだよ、なんて言う人
もいるかもしれない。でもね、でもわしはそーいうのには全く同情な
んかしない。

今日のジイさんが絡んできた時、わしは真っ先に思った。「わしは
今日、会社行って働いて疲れているんだよ…。まったく馬鹿な上司
に振りまわされて、偉い人に気ィ遣って、笑顔してたりするわけよ。
あんたなんて、どうせ一日公園でゴロゴロしてただけじゃんさ。」

話が飛ぶけど、今夜のジイさんだって、自分の身体が動かなくなっ
た時、「国がきっと何とかしてくれるだろ」なんて言いそうだ。なんか
さ、わしは空しくなってきた。そして無性にハラが立ってきた。毎日
会社で働いて、どうせ将来当てにもならない厚生年金を真面目に
支払って、挙句にこんなジジイに絡まれてさ…。

中学の公民で習った国民の三大義務ってのは、納税の義務、勤労
の義務、普通教育を受けさせる義務だったと思う。わしは、義務を
果たさない人は許さないの。…つうか、そういう人は、電車の隣に
座っている人に、時間を聞く資格もないと思うの。

それに、人生って、どんな境遇に生きることになろうと、それは運命
なのであり、その中で精一杯生きるしかないわけで、決して他人に
八つ当たりをしてはいけないと思う。電車の中で酒飲んで他人に大
声で話かけてくるような人は、いかにも自分だけがツライみたいな
コト言ったり、自分がこんななのは他人のせいだ、とか言ったりする。
甘ったれるな。

とにかく、自分がされたら嫌なことは、他人に対して絶対やっては
いけない。あ〜ぁ、世の中みんながこう思っていたら、毎日が平和に
暮らせるのに。どうしてこんな簡単なことが出来ないワケ？

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