著者松野大介は、中山秀征とＡＢブラザーズを結成していた人で、
既に芸能活動を引退し、現在は作家活動をしているようです。

この本のストーリーは、お笑いを目指す路木という主人公が、
桜小路という相棒と出会い、お笑いコンビを結成し一躍有名になる。
しかし次第に、桜小路だけに仕事が入り、主人公には仕事が来なくなり、
結局コンビを解消し、主人公だけが芸能界から姿を消していく…。

松野大介自身の体験を踏まえた私小説的な内容で、どこが本当で、
どこが創作なのかは、すごく気になるところです。

一般ピープルには謎の世界である芸能界の話、お笑いの話、
売れなくなって芸能界から姿を消す人の心境、どういう人がＴＶ番組に
出演する人なのか、など、かなり面白い内容です。

ＴＶをただ見ている人には、「あの人、最近ＴＶで見なくなったなぁ」くらい
にしか思わないのかもしれませんが、ＴＶから消えていく人は、これほど
悩んだり考えたりしているのだ…ということが、リアルに伝わってきます。

ＴＶも最近は、わしの個人的な意見では、作り手と見る側のギャップがある
ようで、作り手が勝手に盛り上がっている感じがしますが、小説では
こういったＴＶのあり方にも、疑問を投げかけているような気がします。

あと特筆すべきところは、主人公が好きな女性と別れる話が
あるのですが、ここが興味深い内容になっています。
以前読んだエッセイ「愛してる、でも結婚はしない。」で、恋愛について
絶妙な切り口で筆を進めていましたが、やはり松野大介という人は恋愛の
苦い部分を知り尽くした人で、だからこそ、こういう恋愛エッセイが
書けるものなのだなぁ、と、今回の小説を読んで納得してしまいました。

付き合っていた人と別れて立ち直るには、どんなにつらくても、
誰も助けてはくれないもの…。とにかく苦しい。いつになったら、自分は
幸せな気持ちになれるんだろう…と、えんえん考えたりしますよね…。

もし今、そういうドツボにはまっている人がいたら、この小説はオススメ
です。共感できる部分があるのではないかと思います。

さて、それにしてもわしは、ＡＢブラザーズは名前だけしか記憶に
残っていないのがカナシイ…。どんなコンビだったのか、昔のビデオが
あったら見てみたい、と思ってしまいます。

何と言うか、松野大介の著書を他にも何冊か読んで感じたことは、
どうしても中山秀征とコンビを組んでいたなんて、とても想像が出来ない。

とにかく、わしとしては、松野大介は今後注目すべき「作家」です。
本屋で著書を探すと、なぜ「男性タレント」のコーナーに分類されているのか〜？
ちょっと不満です。
是非今後、文学賞をとることを祈っています。

「芸人失格」
松野大介 著
幻冬舎文庫

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