わしの直接の上司は、一回り年が上の女性で、わしはその方を心
の中で“宇宙戦艦女史”と呼んでいる。うちの部の女性スタッフの中
では、一番長くお勤めで、最年長でもあり、なおかつ唯一マネージャ
ーという肩書きがある彼女は、お局様と呼ぶにふさわしいお方だ。

彼女は、仕事も速く、頭の回転も良く、自分に厳しい人である。だか
ら、自分より下の人に対しても、こちらが一生懸命に行動すれば、
それだけ面倒をよく見てくださるありがたい方でもある。

が！　仕事をなまけたり、逆鱗に触れたりした日には、とんでもなく
コワイ方になってしまうのである！　

わしが今の会社に入社する時、面接でこんな質問があった。
「年上の人と一緒に仕事をしたりするのは大丈夫かな？」
えぇ、今になって、その意味がよくわかりました。

そんなこんなで、もうかれこれ5年半も一緒にお仕事しているわけ
なのだけど、わしもこんな性格ながら、結構気を遣っているんです。

まず、機嫌の良い時と悪い時を見分けるべし。機嫌の悪いときに絶
対声をかけてはならない。以前派遣で来ていた女性は、いつも彼女
が忙しく、怒りのオーラを発している時に、タイミング悪く、しかも要領
を得ない質問をするので、いつもキツイ返答しかされなかったな…。
お願いィィ、彼女を怒らせないでくれぇ、と横でハラハラしてしまったり。
だって、わしにも火の粉が…。

今更わからないなんて、コワイから聞けませーん、と思いつつも、後
になってミスるより、最初に勇気を奮って質問したほうが、大目玉を
食らわない。でもこれが、なかなか出来そうで出来ないらしく、彼女
を苦手とする人は多い。

何があっても、彼女をキライと思ってはいけない。そりゃわしも、くそ〜、
今日は許さん〜、と思わない時がないわけでもないよ。でもキライに
なれば、絶対顔に出てしまう。なんて素敵な方なんだ！と思うのだ。
実際、さっぱりした性格で、たとえ前の日が険悪ムードでも、次の日
には持ち越さない人ではある。

そしてたまには、悩み事を相談してみる。「えぇ、わたしって、ホントは
この仕事向いてないと思うんです。宇宙戦艦さんは、何でもきっちり
こなしてて尊敬ですぅぅ。」…っていうのは、わしのキャラクターだから
言っても許される、と誰かが言ってたけど。

最後に、一番重要なのは、怒られたらありがたいお言葉だと思って、
素直に謝るのだ。どうもすみませんでしたァァ。以後気をつけマッス！
ずっと前は、言葉遣いが悪い、って怒られたし、今日も「あなたの電
話は長すぎるわ。丁寧なのは大切だけど、簡潔に短く話すほうが、周
りからの印象が良くなるわ。この前も、あなたに内線かけたら、ずっと
話し中、って言っている人がいたのよ」。はい…。おっしゃる通りです。

×××××

さて先日は、わしは、何とも厳しい内容のことを電話で交渉していた。
先月まで会社で借りていた単身赴任者のアパートが、退出の際、原
状回復費用として15万円も発生してしまったのである。

３年しか住んでいなかったのだけど、クロスとじゅうたんを全面張替
えするように言われ、住んでいた社員は、特に破損したわけではな
いので、かなり高額の請求といえる。

先方の不動産屋は、何としても代金を請求すると言っているし、うち
の会社から代金を払う事になったら、住んでいた社員から給与天引
するきまりなのだ。それはあまりに可哀相である。

で、わしも頑張って電話しているんですけど、話はドツボ状態。そん
な時、隣の席でお局様は「それは払わなくて当然なのよ！ダメよ！
絶対に譲っちゃ！」。

は、はぁ、わかってるんですけど、先方の電話も、折れてくれないん
ですよね。相手は怖いし…。でも仕方ないので、わしも恐る恐る強
気の口調で相手に話す。

わしがお局様に対して、ここが苦手ってコトを一つ挙げるとすれば、
彼女は、何事も、自分が出来る事は他人も出来て当たり前、と思っ
ていること。確かに言っていることは正しいんですけど、あなたなら
出来ることでも、わしには出来ないことってのもあるんです。それが
ホントにツライです。わかってくだせえぇぇ。

電話はドツボ状態のまま、先方から折り返しの電話を待つことで、
しばし中断。

「じゃ、私帰るけど、いいかしら？」

え？　帰るのかよッ。帰るなよッ。いや、帰らないでください。次の電
話がかかってくるまで、待っててくださいぃぃ…（泣）。

あぁ、彼女は帰ってしまった。そして、一人孤独に、ヤクザな電話を
待つわたくし。

次の日、結局問題は解決せずに保留になっていることを報告する
と、「今度電話がかかってきたら、私に代わっていいからね」。
あぁ！なんて頼れる方なんでしょう！…つうか、結局わしは未熟者。

というわけで、長々語ってきたけど、今は、彼女に逆らったら会社に
いられない運命なので、細々とガンバリマス。彼女に張り合えるくら
い仕事をこなせる日が、わしには来るんでしょうか？　まぁ、そうなら
なければ、会社には長く勤められないんですけどね。はァ〜、ため息。
彼女は、女性で最初の役員になったりするのかもしれない。

前のページに戻る