うちの会社の警備室には、年中無休24時間体制で、必ず２名の警
備員さんが詰めている。社員の出社時間には、ビルの玄関の前で
張り込んでいるし、ビル内の防犯カメラで社員の行動はすべてお見
通しである。

以前、警備員さん達をよく知らない頃、随分無口で愛想のない人だ
なぁ、と思っていたけれど、しばらくして、わしの顔と名前を覚えてく
れてから、気軽に立ち話をしたりするようになった。話をしてみると、
陽気なおじさん達ばかりであることがわかった。先日も、警備室に呼
ばれたので何かと思ったら、柿をくれたのであった。

さて、その中でもＦさんは、かなりの噂好きで情報通である。

おじさん：「そうそう、ＡさんとＢさんは、その後どうなの？」

Ａさん（26歳・女）とＢさん（30歳・男）は、会社の誰もがその仲を知っ
ている社内カップルだった（←過去形）。

わし：「つい最近、Ｂさんが社外の違う女性と結婚したみたいですよ」
おじさん：「ふ〜ん…。」

しばらくの沈黙の後、いきなりヒソヒソ声で、

おじさん：「ところで、ＡさんとＣさんはデキているんですかね…」
わし：「は？…Ｃさん？？？」

Ｃさんは38歳の妻子もち。ついでにＡさんの上司である。いやはや、
えーらいこと聞いちゃったな、おい…。で、その根拠とやらをすごく
聞きたかったんだけど、うまくはぐらかされてしまった。つまらん。

それにしても、警備のおじさんは侮れませんね。随分詳しいじゃな
いですか〜、って言ったら「だって暇ですから。おほほほほ」だって。

「ところでさ、私んとこの息子が27才なんだけど、よく見かけるＫさん、
いい娘だよね。息子のお嫁さんにどうかな？私は、息子はどうでもい
いんだけど、とにかく娘がほしいんだよね〜」

「わっ、ダメですよＫさんはッ。ほわ〜んとした性格に見えるけど、あ
れでも早稲田出の才女だから、結構プライド高そうですよ」

わしも、情報を流してしまうのであった。

「ところで、手寅さんはどう？　私んトコの娘」
「わしは、心に決めた人がいるからダメです！」

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